「すみません、泊めてもらえませんか?」

珍しく雨が降らなかった夜。
彼女は突然やってきた。










「ど、どうしたんだ?こんな時間に」
「兄さんと喧嘩しました」

兄さんとは菊のことだ。
普段は温厚な兄妹が何で喧嘩したんだ・・・?
だがいくら聞いても喧嘩の内容は教えてくれない。
聞くたびに頬を紅に染めてうつむいてしまう。

「まあ理由はいい、どうしても帰らないのか?」
「・・・兄さんが謝るまで帰る気はさらさらありません」

は一度決めたことはなかなか変えない頑固な子だ。
今回はいつもより意志が強く見える。
これは菊が謝るまで帰らないと見たほうがいい。

「5日くらいは泊まれるようにいろいろ持ってきたんでしばらくお世話になります」
「仕方ねえな・・・いつもの部屋を使ってくれ」

前にも同じようなことがあったのでの部屋は常に確保されている。
・・・こんな時に考えてしまうのも少し不謹慎だが、何であれが泊まりに来るのは嬉しい。
彼女が家に来るんだ、あたりまえだろう?








がうちに来て2週間が過ぎようとしていた。
だが未だに理由を話してくれない。

「そろそろ教えてくれたっていいだろ。喧嘩の理由をよ」
「・・・実は喧嘩の理由がアーサーさんのことなんです」
「・・・・・・俺?」

なぜ俺が兄妹喧嘩に関連するのか。
まったく見当がつかない。

「私がアーサーさんと結婚を前提にお付き合いをしていることを兄さんに言ったのですが・・・」
「見事に拒否されるだろうな」

なんて言ったっては菊の大事な従妹だ。
まあ従妹と言うが実際は父子のような関係だが。
娘のように可愛がってきた子がいきなり結婚なんて言えば怒るだろう。
・・・あれ?これって俺が切られるフラグじゃねえか?

「そろそろ家出して2週間が経つことだし菊も怒ってないんじゃないか?」
「そうですね・・・電話してみます」

は俺の家の構造を把握しているので電話まで迷わず行く。
俺は隣で待つことにする。

「っ!えっと・・・です」

そこから今はどこにいるか、何もなかったかなどを聞かれていた。
どれだけ信用ないんだよ、俺。

「あ、はい。今代わりますね」

は受話器を俺に渡す。
少し菊と話すのが怖いが、頑張ることにした。

「お久しぶりです、アーサーさん」
「あぁ久しぶりだな、菊」
「とりあえずを泊めていただいてありがとうございました」
「いや紳士として当たり前だからな」

そう紳士として当たり前。
だがそれ以前に恋人として当たり前であった。

「で、先日初めてお聞きしたのですが・・・とは結婚前提で付き合ってるんですね」
「あ、あぁ。いつかは結婚するつもりで付き合っている」
「・・・・・・・・・アーサーさんにを幸せにできますか?」

を幸せに。
出来るのか?俺に。
いや、出来るかじゃない。しなければならない。

「絶対に幸せにする。だから・・・を俺にください!」
「・・・・・・」

暫くの静寂。
少しすると受話器の向こうから小さな溜め息が聞こえた。

「・・・・・・菊?」
「・・・・・・を・・・どうぞよろしくお願いします」

会話が聞こえていたらしいは俺の腰に抱きついた。
落ち着け、落ち着け俺!
そんなことを考えている間には受話器をひったくるように取った。

「兄さん!ありがとうございます!」
「・・・アーサーさんに何かされたらすぐに言ってくださいね?」
「はい!それでお願いなんですが・・・」
「なんです?」
「花嫁修業っていう名目でもうしばらくアーサーさんの家に泊まってもいいですか」
「駄目に決m 「ではもうしばらくこっちにいますね!」
「ちょっと、!話を聞きなs」

話の途中でガシャンッと電話を切った。
・・・どこから沸いてきたんだ、この行動力。

「そんなわけでもう暫く泊まりますね」
「あ、あぁ・・・いいぞ」

は満足げに笑いながらスキップで台所へ消えていった。




Happy Life
(ん、この料理美味いな)(ふふっ、ありがとうございます)





Dear 兄さん
割と平和な生活をしているので安心してください。
あとそのうち結婚式やるんでそのときは来てくださいね!
  From 

「いきなり結婚式・・・ですと・・・!?」

手紙を見た菊が驚いたのは言うまでもなく。



++
ぐだぐだに結婚話。
一度やってみたかったんです